最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)950号 判決 1968年6月28日
上告人(原告・被控訴人) 中田フミ
右訴訟代理人弁護士 敦沢八郎
垂水克已
五十嵐太仲
五十嵐公靖
土屋博昭
被上告人(被告・控訴人) 松竹株式会社
右被上告人補助参加人三井不動産株式会社
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人敦沢八郎の上告理由第一点から第三点までおよび第六点について。
原判決は、上告人ほか三名と被上告人補助参加人との間に、本件土地について、代金を一六〇八万六〇〇〇円と定めて売買契約が締結された旨の事実を認定しているのであって右認定は、原判決挙示の証拠に照らして、正当として是認することができないものではない。本件土地につき所論の抵当権設定登記ならびに代物弁済および売買予約を原因とする仮登記が存在する事実も、原審の認定した経緯のもとにおいては、必ずしも右売買契約の成立を認定することを妨げるものとは解されず、また記録に照らし、右認定の売買契約の事実は、第一審および原審における被上告人の主張と異なるところはないものと認められるのであり、そのほか、原審の右認定判断に所論の違法を認めることはできない。論旨はひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断および右事実認定を非難し、さらに、原判決を正解しないで誤った前提に立ってその違法違憲を主張するものであって、採用することができない。
同第四点について。
原判決は、右売買契約における代金の額および支払方法の定めに関し上告人に要素の錯誤があったことは認められない旨を判示しているのであり、この認定判断は、原判決の確定した事実関係に照らして正当として是認することができ、これに所論の違法は認められない。論旨は採用することができない。
同第五点について。
上告人から被上告人への所有権移転登記申請に使用された上告人の委任状および印鑑証明書が、印影に争いがないことから、真正に作成されないしは上告人の意思に基づき交付されたものと推定した原審の判断は是認できないものではない。
さらに、原判決が確定した事実によれば、上告人は、被上告人補助参加人とともに、本件土地につき、中間者である右補助参加人を省略して上告人から被上告人に直接所有権移転登記をすることを承諾していたのであって、右中間登記省略の合意に基づいて被上告人のためになされた登記は現在の実体的な権利の帰属に符合しているものであり、しかも、上告人ないしこれと共同して売主であった者らにおいて右補助参加人からすでに売買代金全額の支払を受けていて、移転登記を拒むについて何ら正当の利益を有していないものと解されるのであるから、右登記が仮りに上告人の意思に基づかないで作成または交付された委任状、印鑑証明書を使用してなされたとしても上告人において売買契約の効力を争いえないものとした原審の判断は、登記の抹消請求が許されないとの趣旨においても、正当ということができる。
そして、原審の確定した事実関係においては、被上告人が右所有権移転登記を受けた経緯に何ら信義則に反する事由を見出すことはできない。したがって、論旨は採用することができない。
上告代理人垂水克已、同五十嵐太仲、同五十嵐公靖、同土屋博昭の上告理由第一点から第四点までについて。
上告人ほか三名と被上告人補助参加人との間の売買契約の成立についての原審の事実認定が是認できることは右に示したとおりであり、論旨はすべて、原審の証拠の取捨判断および右事実認定を非難するに帰するものであって、採用することができない。<以下省略>
(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)
上告代理人の上告理由<省略>